産業医の共同責任に対する補助が無くなり、小規模事業所における産業医活動に対する支援が後退した感がありますが、その理由として共同責任事業の実績が不十分なことが挙げられました。
一方、労働安全衛生法の改正によって、長時間労働者に対する医師の面接指導が義務付けられましたが、独自に産業を確保できない小規模事業者は、地域産業保健センターに頼らざるを得ず、同センターの知名度、窓口へのアクセスが限られていることから、相談件数が大きく伸びることは難しいと想定されます。
長引く不況の影響なのか、朝早く出社して夕食を食べずに11時前後に帰宅する労働者が多く、過重労働によってメンタルヘルスに問題を抱える人も少なくありません。従来、産業医の講習会の内容と言えば、作業管理、作業環境管理、健診の実施、腰痛の対策などが中心でしたが、職場での「うつ病」、「統合失調症」などの増加によって、メンタルヘルスと過重労働をテーマにした話を求められるケースが急増しています。
一般内科における日常診療の場でも、本来は心療内科あるいは精神科で診療を受けたほうがよい幅広い年齢層の患者がやってきます。しかし、地域の専門医の数が不足しており、メンタルクリニック、精神科を標榜している診療所が少ないため、ただでさえ専門医療機関は患者で混雑しているのに、更なる患者の増加は現場の疲弊を生む結果となることは目に見えています。
そのため勉強会では専門医から「うつ病の患者さんであっても、差し迫った自殺企図などが見られない限り、プライマリの医師が抗うつ薬を処方して経過を観察してほしい。それでも改善しない場合には、専門医に紹介してください」と要望されるほどです。ただ、この状況により、専門医の助言を受けたり、短期間だけ専門医に診てもらったり、判断を仰ぎながらも「うつ病」や「神経症」の患者を診る機会が増えたため、以前に比べてメンタルヘルスを診ることに苦手意識を持つ医師は減りつつあるように思います。
認定産業医で一番多いのは内科系臨床医ですが、こういったメンタルヘルスの需要の高まりから、産業医 募集を行う際には、メンタルヘルスを診療できる医師を優先することが増えています。内科系の産業医に加えて、メンタルヘルスの専門医の増員あるいは交代といわれますが、臨床の現場の専門医が不足しているため現段階では難しい状況です。近年は、精神科領域を目指す若手医師が増加傾向にありますが、彼らが臨床の現場で経験を積んで一人前になるためには5年、10年という時間がかかります。